今回は,深部静脈血栓症 (Deep Vein Thrombosis; DVT)についてまとめたいと思います。
四肢の静脈には,筋膜より浅い表在静脈と,筋膜より深い深部静脈があり,深部静脈に血栓が生じた場合を深部静脈血栓症といい,DVTと略されます。DVTは血栓が遊離し,肺動脈へ移動することで,致死性のある肺塞栓へ至るリスクがありますので,その管理は非常に重要といえます。
DVTは,臨床現場におけるリスク管理としてもポピュラーなものの一つで,特に急性期に関わっている理学療法士は普段から気を付けることが多いと思います。
DVTの危険因子
『肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン』によると,DVTの危険因子として,以下のものが挙げられています。
- 加齢
- 長時間座位,長期臥床
- 外傷,心疾患,悪性腫瘍等の病態
- 脱水
- 肥満,妊娠・産後
(上記ガイドラインより一部抜粋)
リハビリの現場においては,脳血管障害での長期臥床や,下肢関節術後などで多く扱われているのではと思います。
DVTの診断・所見
DVTの診断,所見には様々あります。しかしながら,どれも確定診断ができるものではないので,診断で引っかかったものがあれば,下肢血管エコーや造影CTで確定診断をするような流れになります。
身体所見
- 腫脹
- 色調変化(ピンクや青など個人差あり)
- 皮下静脈の怒張
- 把持痛
- Homans徴候
- Lowenberg徴候
検査所見
- Dダイマー
- 下肢血管エコー
- 造影CT
Homans徴候
膝を軽く押さえて足関節を背屈させると,腓腹部に疼痛が出現する。
Lowenberg徴候
下腿に血圧測定用のカフをまいて加圧すると,100~150mmHgで腓腹部に疼痛が出現する。
いずれも感度,特異度ともにそれほど高くなく,かつばらつきがあるので,徴候なし=DVTの否定とはできないので注意が必要です。
Dダイマー
Dダイマーは,身体のどこかに血栓が存在することを確認する指標で,基準値は標準化されていないが,500ng/mL未満あるいは1μg/mL未満とするものが多いです。
Dダイマーは感度78~96%,特異度38~66%とされています。したがって,Dダイマーの数値から以下のことが言えます。
Dダイマーが高値=DVTと確定診断はできない。
Dダイマーが正常値=DVTを高い確率で否定できる。
このことから,DVTを確定診断するためには,Dダイマー高値であったものに対して,下肢血管エコーや造影CTを行う必要があります。
DVTの予防
DVTに対しては,予防が非常に重要です。予防法としては,以下が挙げられます。
- 早期離床
- 積極的な運動(足関節底背屈運動など)
- 弾性ストッキング
- 間欠的空気圧迫法
高リスクの患者に対しては,予防的に抗凝固療法も行われることがあるそうです。どれも臨床現場で広く行われているものです。基本に忠実にしっかりと行うことが大切だと思います。
DVTの治療
DVTを発症した患者に対しては,肺塞栓への移行を予防することが最重要となりますので,早期に抗凝固療法(ヘパリンやワーファリン等)を行います。
DVTが確定した患者に離床・歩行はしてよいか?
DVTの急性期は,運動による血栓の遊離が生じ,肺塞栓が生じるリスクがあり,歴史的にベッド上安静が行われてきましたが,現在は,抗凝固療法を行っていれば,早期に歩行を行っても肺塞栓は増加しないと報告されているため,運動も許可されているようです。しかし,巨大な浮遊血栓症例では症例ごとの判断を要するとのことです。
まとめ
今回は,深部静脈血栓症(DVT)についてまとめました。やはり改めて怖い疾患だと確認できましたので,しっかりとリスク管理をしていきたいと思います。